矢印堂本舗




思ったよりもすごい、矢印の力

■実例


 左を見ろ→→→→→       こっちは右だ



これはネット上でたまに見られるネタの一つですが、 文字では「左を見ろ」と書いてあるのに、「→→→→→」という矢印につられて思わず右を見てしまいます。

しかし、「文字は左から右に読むものなんだから、視線が右に行きやすいのは当たり前だ」という意見もあるかもしれません。

では以下のような例はどうでしょうか。

 左を見ろ←←←←←       こっちは右だ


最初の例と比べ、視線が右に行きづらく感じるのではないかと思います。 文字を左から右に読むからといって、ただそれだけで右方向に意識が向くわけではないようです。


■フランカー効果(flanker effect)
では、次の例はどうでしょうか。

 左を見ろ→→←→→       こっちは右だ


5つの矢印の中に一つだけ左矢印を混ぜているのですが、 右側への誘導が少し弱くなったと感じる方もいると思います。

これはフランカー効果(flanker effect)と呼ばれるもので、 視覚から入ってくる各情報の間で矛盾が起きると、その誘導する効果が小さくなる、という現象です(*)。

(*)より正確には、フランカー効果とは「情報が一致したとき(→→→→→)と不一致のとき(→→←→→)の効果の差」を表します。 ちなみに、フランカー(flanker)とは「側面にあるもの」という意味です。 「周り(側面)に反対の情報があると、情報の効果が弱まる」ということを表しています。

またこれは、集団の中に一つだけ違うものがあるとそこに注意が向く、という人間の性質にも関係していると思われます。 組体操やダンスで一人だけ間違えるとすごく目立つことからも分かりますね。 上の例で言うと、一つだけ向きが違う「←」に注意が向いてしまい、他の4つの「→」の効果が打ち消されてしまうことになります。

そしてこれは矢印同士の対立だけでなく、文字と矢印にも同様の効果があります。 つまり、以下の(A)は文字情報(「左を見ろ」)と矢印情報(→)が対立しているため、 一致している(B)に比べ、右側への誘導が弱いことになります。

(A)

 左を見ろ→→→→→       こっちは右だ




(B)

 右を見ろ→→→→→       こっちは右だ





■見落とされがちな点
このように、フランカー効果で右方向への誘導力が弱まっているにもかかわらず、

 左を見ろ→→→→→


という「看板」は右方向への非常に強い誘導力を持っています。 それだけ矢印の力が強い証拠とも言えますが、 この看板が右方向への強い誘導力を持つのにはもう一つ理由が考えられます。

そもそも矢印は、その指示方向へと注意を誘導します。 上記の例では矢印は右を向いていますので、意識は自然と右側に向くことになります。 すると、左側にある「左を見ろ」という文字への意識は少なくなります。 したがって、「左を見ろ」という文字情報はさらに無視されやすくなり、 結果として矢印の相対的な力が強まることで右側に意識が誘導される、というわけです。

逆に考えると、以下の例は文字情報と矢印情報が一致し、 さらに矢印で文字情報へのを高めているという点で、 左への非常に強い誘導力をもたらしています。

 左を見ろ←←←←←



同様に、右へと注意を向けてもらいたいときは、

 右を見ろ→→→→→


ではなく、

 →→→→→右を見ろ


とするべきだということが分かります。 ただ、これはあくまで机上の話なので、本当にこうなるかは実験が必要でしょうね。 もしかすると余計な文字は取り払った方が効果的かもしれません。


■まとめ
以上の例から分かるように、 どうやら私たちはあまりちゃんと文字を読んでいないようです。 したがって道路標識なども、 あまり文字を詰め込むのではなく、矢印のような直感的な記号を積極的に採り入れた方が良いでしょうね。 そしてその際には、文字と矢印の位置関係にご注意を。

矢印は単体でも、文字を上回る非常に強い誘導力を持つ。 しかし、「文字情報」「矢印情報」を一致させ、さらに文字情報を矢印の先に置くことによって 莫大な効果がもたらされる。

ということなのです。

2008.07.22掲載